たなかむつこの分身・エッセイストがつむぎ出す、ちょっと団塊の世代の生活大好きエッセイシリーズ。

手ぬぐい礼賛。

昔から身近にあったけれど、今、あらためて…。

秋風が通るベランダで、手ぬぐいがゆれている。

このところすっかり手ぬぐいにはまっている。
きっかけは去年のクリスマスのこと。

長年のイタリア駐在から帰国した夫の友人夫婦を誘って、
わが家で「たらふく会」を開いた。

(ちなみにこの会は、おもてなしにかこつけて
カロリーもお酒も甘いものも解禁となるわが家の行事名である。)

友人夫婦が得意顔で持参のイベリコ豚の生ハムより、
興味を引かれたのが布に包まれたボトル。

夫は中身の銘柄焼酎に歓声をあげたが、私の目をとらえたのは
包んでいた布、それは一枚の日本手ぬぐいだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


布好きで、北欧やタイ、バリ島、南米などの手織布を
見つけては買い込んで、夫の冷ややかなまなざしを浴びてきた。

ところが、それらの布との決定的な違いがあった。

手ぬぐいはあくまで実用に徹したマルチクロス。
しかも、染めによる絵柄は一枚一枚がアートとして楽しめる。


手ぬぐいという、本当のところはあまり馴染みがなかった布との
付き合いが始まった。

ラッピングにすれば外国人だけでなく、日本人にも喜ばれる。

年末には、おせちを冷ますときの掛けふきんに、
年始には卓上のおしぼりにして好評であった。


そういえば子どもたちが幼い頃に使った、古い手ぬぐいがあったはず。
押入れの奥をごそごそ探すと、あったあった。

白地に藍でひょうたんを染めた年代物の手ぬぐいは、
なんともいえずやわらかい風合い。

もしかしてしまってる間に熟成された!?


・  ・  ・


試しにお風呂でタオルがわりに使ってみると、すこぶるよろしい。
手ぬぐい自体は薄いのに泡立ちがよく、肌をこするときも
手ぬぐいのキメが肌に合い、しっかりとこすれるのだ。
おまけにゆすぐときも泡切れがよく、キリッと絞れる。

旅行にも必携アイテム。
着替えをくるんで仕分けするとおしゃれだし、
肌寒いときはスカーフに、ハンカチにもタオルにもなる。

おまけにかさばらないのがうれしい。
そして、旅先ではご当地のセンスのいいお店の手ぬぐいを土産に。

こうして集まった手ぬぐいは、夫が始めた“なんちゃって盆栽”の
鉢に巻いてみたり、お友だちから借りた本を包んで返したり、
ワインを手土産にするときはぶどう柄の一枚でラッピングして…と、
いろんな思いつきにも応えてくれる。


まっ白な木綿のさらしに型染めされた手ぬぐいを、
色あせないように使うコツがある。

洗剤を使わずたっぷりの水で手洗いして、直射日光を避けて干すこと。
切りっぱなしの両端は、ほつれてきた糸を切りながら使ううちに、
ある程度のところでほつれが止まる。

使い込むほど風合いよく馴染んでくれて、ますます手放しがたくなる。
恐るべし、手ぬぐい。


●写真の秋柄の手ぬぐいは
東京・代官山に本店がある手ぬぐい専門店「かまわぬ」のもの。
すべて「注染」という手法の手染めです。
お店のロゴは鎌と輪の絵に「ぬ」の文字を合わせた判じ絵。
江戸時代の歌舞伎役者・七代目市川団十郎が舞台衣装に用いて
大流行したといわれる意匠とのこと。

http://www.kamawanu.co.jp/top.html

■デザイン/(株)スタジオVIS ■フォト/(株)山岸スタジオ

(C)copyseisakushitsu,inc. all right reserved.