たなかむつこの分身・エッセイストがつむぎ出す、ちょっと団塊の世代の生活大好きエッセイシリーズ。

幸運を呼ぶガラス。

先日娘が遊びに来て、ハワイ土産のサンキャッチャーなるものを 置いて帰った。 引き...

先日娘が遊びに来て、ハワイ土産のサンキャッチャーなるものを
置いて帰った。

引き替えにちゃっかり、頂き物の老舗の佃煮と
蔵囲いの極細そうめんが消えたが。

幸運を招くというそのサンキャッチャーは、
キラキラした透明のクリスタルガラスで、窓辺に吊っておくと
表面のカットが光をとらえ、あたりにいくつもの小さな虹を作る。

しきりに感心する父親に「え〜っ、知らないのぉ?太陽の
エネルギーが部屋を浄化してくれるのよ」と、娘が得意げに説明する。

新しもの好きの夫は、書斎にしている元長女の部屋の窓辺に
それを吊した。

おかげで晴れた日にその部屋に入ると、壁や天井にミラーボールの
光のような小さな虹がいくつも浮かんで浄化中だ。
にぎやかなことこの上ない。

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ふふふ。
実は、私も自分の部屋に“サンキャッチャー”を持っている。

かつての次女の部屋は、今、わが家のゲストルーム兼私の
“遊び場”だ。手織り布で覆った来客用ベッドと窓際のデスクが
そこにあるだけ。ここでインターネットを見たり、自己流の絵を描いたり、
文庫本を読んで、疲れたらベッドに寝そべってCDを聴く。

何という贅沢。
窓辺に置いたガラスキューブが、夏の午後の光をさまざまな色の
光模様に変えてデスクの一角を彩っている。
これが私のサンキャッチャーだ。

以前夫のゴルフ仲間で俳句友達のK氏からもらったこのガラスは、
何でも中近東あたりの手作りだそうで、K氏が趣味の日曜大工用に
買い求めたお余りだ。

遠慮なくいただいた。本来は室内装飾のパーツに用いるものらしい。
ころんとして手のひらに乗るガラスのかたまりは、
「なになに用」とか「こんな風に使う」とか自己主張することなく
役立たずなところが私の気に入った。


K氏がうちに来たその日も確か暑い日で、3人で冷たい
スパークリングワインを飲んだ。わが家は普段は赤ワインばかりで
白に合うグラスがない。

透明度が高く薄いグラスがいいよね、と仕方なく
北欧のオンザロック用のグラスで乾杯した。

「北欧のグラスには透明でシンプルなものが多いワケ、
知ってる?」うんちく博士でもあるK氏が言った。

「冬が暗くて長い北欧では、光の明るさを楽しむために
きれいな透明感を大事にしたんだ。反対に陽ざしの強い
南欧や中近東では、光を弱めたり表情を変える色ガラスが
発達したそうだよ」

本当?真偽のほどは定かではないが、話は面白い方がいいと
日頃から唱える夫はふむふむとうなずく。

・  ・  ・

きれいな色のガラスの透過光はいろんなシーンを連想させる。


ブルーは沖縄のヒミツの小さなビーチ。
グリーンは信州の森の木陰に置かれたテーブル。
オレンジは志摩半島の夕映え。

無心で眺めて、心で旅をする。


何ともいえない幸福感に包まれる。
サンキャッチャーは確かに幸せを呼ぶ。


●中近東とガラスの結びつきは古く、古代メソポタミアでは
紀元前18世紀にガラスが作られていたという。
ペルシャ(現在のイラン)からシルクロードを経由して渡来した
ガラス器を奈良・正倉院御物にも見ることができる。
写真のガラスキューブもイラン製。


■デザイン/(株)スタジオVIS ■フォト/(株)山岸スタジオ

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