明治の夢、国産紅茶をつくる。

静岡県・丸子で茶樹を育て、紅茶をつくる人がいる。 惚れ込んだ茶樹は、今話題の「紅富貴(べにふうき)」だ。

■表紙の人

村松二六さん
丸子紅茶製造(静岡市丸子)

茶畑のウネとくるくる回る霜よけのプロペラ…静岡独特の風景だ。

国産紅茶の話は、明治時代にさかのぼる。

明治維新後、新政府の命を請け、国産紅茶を新しい輸出産業にすべく、

中国やインドへの大調査旅行に派遣された人物がいた。

多田元吉。

丸子で、徳川家より払い下げの山林を切り開き、

優れた緑茶の製茶技術を確立した経歴が買われた。

ところが、帰国後、精魂を傾けて国産紅茶を作りあげたが、

インドの大規模な茶園に品質や価格競争で太刀打ちできず、

やがて国産紅茶の夢は忘れられていった。

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多田の夢を継いだのが、村松さんだ。

同じ丸子で、元吉が眠る寺の境内や、元吉が植えた茶樹のそばで

遊んで育ったという。

家業のかたわら、若い頃から茶の栽培に打ち込み、

微生物を生かす土壌改良などを熱心に学んだ。


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55歳のとき、多田元吉ゆかりの紅茶用茶樹「紅富貴」に出会った。

元吉がインドから持ち帰ったアッサム系の種子を母に、

ダージリン系の樹をかけあわせて生まれた木が研究用に栽培されていた。

頼んで分けてもらった苗だったが、誰も栽培経験のない未知の品種。

葉が格段に大きくて厚く、生葉には強い苦みがある。

実は、その苦みの素こそ、「紅富貴」特有の成分、メチル化カテキンだ。

今では強い抗アレルギー作用が知られ、花粉のシーズンになると供給が追いつかない。


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残念ながら、その抗アレルギー作用は紅茶になると消える。

ひきかえに、深い香りや厚みのあるコク、豊かな滋味、

後に爽やかに広がる渋みといった紅茶党をうならせる醍醐味が広がる。

「紅富貴」紅茶は平成になって、ファンを着実に増やしている。


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村松さんの手になる国産紅茶「丸子紅茶」の「紅富貴」には、

小さなラベルが貼られている。

「地力に優る技術なし 島本有機微生物農法」。

土が生きていて根が健康なら、農薬に頼ることなくよい茶葉が育つ。

知恵をしぼり手間をかけて、安全でおいしいものを作るところに、

農業者の喜びと誇りがある。

無口な村松さんが、ポツリポツリと語ってくれた。

丸子紅茶製作所
静岡県静岡市駿河区丸子6775
TEL&FAX 054-259-3798

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